「アールイーインタビュー」は、アールイーがともに事業をすすめる事業者の担当者様をお招きして、今井や大慈弥とともに取り組んでいる事業を通して「食」や「農」の未来を語り合う企画です。
第2回は、アールイーの大慈弥晶土が取締役として経営に参画している農業生産法人株式会社ジーシーシーアグリテック(本社:群馬県前橋市)で生産するパクチーの主要取引先「株式会社ZUCI(シュチ)」の代表取締役・桑垣真紀さんへのインタビューです。
ZUCIは、千葉県船橋市に本社をもつアジアンハーブの生産・卸販売会社です。アジアンハーブの魅力を広く伝えることをミッションに掲げ、2018年に法人格を取得しました。現在は、パクチーなどのアジアンハーブの生産・販売のほか、タイ料理店やタイ料理のキッチンカーの運営、自社加工品も販売するアジア食材のECサイトの運営など、フィールドは多岐にわたります。
こちらのインタビューでは、パクチーを代表とするアジアンハーブの生産と販売に関する取り組みや、生産者との協力関係の構築、販路の重要性などについて語り合うなかで、日本の農業の未来についても話が広がっていきました。
「医食同源のタイの食文化を知ってほしい」から始まったアジアンハーブ事業
大慈弥晶土(以下、大慈弥):ZUCIは、パクチーなどのアジアンハーブの生産と販売から始まり、今ではタイ料理のレストランやキッチンカーの運営、EC販売など、アジアンハーブを1つのツールにして多岐にわたる事業展開をされています。元々IT系プランナーだった桑垣さんが、なぜアジアンハーブの生産や卸販売を行うようになったのですか?
桑垣真紀さん(以下、桑垣):前職で働いていたときのクライアントにタイ料理の先生がいらっしゃいました。先生の話をきいていると、たとえば今こういう体調だからこの食べ物を選ぶということをおっしゃっていて、食べ物が自分の体を作るというような「医食同源」の考え方がタイでは一般的に広く共有されていることに驚かされました。
私自身に薬品アレルギーがあって、解熱鎮痛剤などの飲めない薬がいくつかありました。しかし先生に教えていただいたハーブを組み合わせた食べ方をすると、これまで体質のため薬で対処できなかった症状が改善したんです。「これは、すごい。もっと多くの人に知ってもらいたい!」と思ったのが始まりです。
大慈弥:なるほど、そこからなぜハーブの栽培や卸販売をすることになったのですか?
桑垣:タイ料理の教室でトムヤムクンやガパオライスなどを作るのですが、先生が使っていらっしゃるパクチー以外のアジアンハーブのほとんどが冷凍だったんです。不思議に思って先生に「フレッシュハーブで作ればいいのになぜですか?」と聞いたら、「日本で育てている人がいないんですよ。」とおっしゃるんです。それなら私が育ててしまおうと思ったんです。これは2002年頃の話です。
大慈弥:その当時(2000年代初め)は、ベトナム料理ブームがあって、アジア料理に目が向き始めたときでもありました。アジアンハーブの生産は、ビジネスチャンスだと感じていたのもありましたか?
桑垣:そんなにブームという感じもなかったですね。もちろんビジネスにしたいという思いで始めてはいましたが、当時は純粋に「医食同源のタイの食文化を知ってほしい」という思いの方が強かったです。
初めは、ペーストをつくることから始めました。夏に栽培して加工して、年間を通じて販売できるものです。バジルやパクチーなどペーストに向いている品種の種を輸入して栽培を始めました。2011年にタイハーブの勉強のためバンコクへ渡りハーブ農園も視察したのをきっかけに、国内の7ヵ所の生産農家に種子を渡して生産委託を始めて、国内でタイハーブの生産に本格的に取り組みはじめました。
当時、タイから正規のルートで種を買って栽培している農家は少なかったんですよ。2007年に後のパクチーブームをけん引するパクチー料理専門店の「パクチーハウス東京」が東京都世田谷区にオープンしたりと、少しずつアジアンハーブの需要が増えてきた時期でもあります。
大慈弥:その後、爆発的にブームになったのが2016年頃でしたね。
桑垣:そうです。ぐるなび総研が毎年発表している「今年の一皿」に「パクチー料理」が選ばれたのが象徴的な出来事ですね。そこからパクチーの依頼がものすごくが来るようになりました。正規のルートで栽培して市場に卸せる生産者が、私たちくらいしかいなかったんですね。それからみるみる業績も伸び、2018年に法人化することになりました。
当時はまだ、パクチーは中国語読みのシャンツァイ(香菜)と呼ばれていました。私は将来的に英語読みのコリアンダー(coriander)で市場の呼び名は収まるかなと思っていたのですが、まさかタイ語読みのパクチーになるとは思いませんでしたよ(笑)。
パクチーは価格変動が起きにくい野菜、小さなマーケットでも勝負できる
大慈弥:現在、ZUCIはジーシーシーアグリテックが栽培したパクチーを卸している取引先になります。初めてZUCIにうかがって桑垣さんのお話をお聞きしたのが、私がジーシーシーアグリテックに参画してすぐの頃だと思います。
桑垣:大慈弥さんは、もともとパクチーに興味を持っていらしたんですか?
大慈弥:実は、私の友人であるちょっと変わった農家が横浜にいるんですが、1haもないような農地でパクチーをひとりで育てて、さらに自分で都内中のレストランに営業して売り歩いています。それで、1000万円ぐらい稼いでいるという話を聞いていたんです。つまり、他の人がやらない野菜をつくれば、狭いマーケットであっても十分に利益が出せるというところに魅力を感じました。
桑垣:パクチーは、実は市場に集まらず、ほとんどが産地から直接小売店や飲食店に届けられるんです。市場に出ないから競りもなく、価格競争が起きにくい野菜といえます。
少し日本の農業について説明すると農林水産省は、野菜の生産量を安定させ価格の変動を少なくすることを目的に消費量が多い野菜や多くなることが見込まれる野菜を「指定野菜」として生産保護をしています。
指定を受けた野菜は、自然災害などによって収量が減り価格が下落したとしても、補給金を受けられるので生産者は安心して育てることできます。ちなみに指定野菜以外にも、それに準ずる「特定野菜」を35品目を国が指定しており、価格の著しい低落があった場合に生産者に補給金を交付することになっています。
当然、農家も慈善事業ではないので、指定野菜の方がリスクが低いですから、指定野菜を育てたいわけです。とはいえ、どこでも指定野菜がつくれるわけではなく、国が定めた指定産地でなければ補助の対象にならません。
一方、消費量の少ないパクチーは、指定野菜にも特定野菜にもなっていませんから、酷暑の影響で収穫量が減少しても誰も何の補償もしてくれません。しかし、リスクを負ってまで栽培しようとする人が少ない分、採れすぎたから価格が下がったりすることも少なく価格の変動が起きにくいともいえます。
大慈弥:それは逆に言うと売り先を自分で探さなきゃいけないっていうことでもありますよね。
桑垣:そうなんです。ですのでパクチーの生産者と売り先を探す営業を完全に分けて、私たちが売り先を探してくるから一切心配しないでパクチーをつくってくださいとお願いしています。私たちは私たちで、卸先に欠品時期なく卸せるように沖縄県から北関東のパクチー農家を抱えて、産地リレーしながら安定して出荷する努力をしています。
そのなかでも群馬県でパクチーを生産してる方がいらっしゃらなかったので、(群馬県でパクチーが生産されれば)産地リレーのアンカーを務める大事な産地になるかもしれないという思いはありました。
大慈弥:私たちジーシーシーアグリテックとしても契約栽培のように一定の量を価格維持しながら買ってもらえるということは、すごくありがたいことでした。また新規就農者が多い会社なので、パクチーの生産指導をしてもらえることも大きな助けになりました。
ZUCIとジーシーシーアグリテックとの橋渡役としての、渡辺さんの活躍
桑垣:私たちが提携しているパクチー農家には、実はどの方にも共通点があるんです。これまで話してきたとおり、産地リレーをして出荷を途絶えさせない、つまり計画的に生産をしていく必要があります。そのため、今提携している生産者たちは、例えば何kgをこの日までに納品してください、そのためにどういう準備をすればいいかなどを理論立てて話していくことに対応してくれているんです。
逆に、「雨だからできません」というような日和見主義、多品種の栽培をされている生産者とは、パクチーに時間を割いて出荷をすることが不安定になるため、うまくいかないですね。私たちの計画についてきてくれるっていうのはとても大事なことなんです。
大慈弥:実際にジーシーシーアグリテックの農業現場のメンバーでもはじめからパクチーを育てることに全員が賛成だったわけではないんですよ。地元で食べないパクチーを育てるよりも、群馬県が一大産地のひとつであるホウレンソウや、近所の人が欲しがるナスやキュウリを育てた方がいいんじゃないかという声もありました。
それでも「ホウレンソウを育てて、今までやっている農家に勝てるのか?」と繰り返し検討し、最終的には「パクチーで行く」という意思が社内で統一され、桑垣さんの計画にしっかりとついていくことができるようになったと思っています。
桑垣:ジーシーシーアグリテックで私たちと向き合ってくださっている担当の渡辺さんの存在も大きいと思います。
大慈弥:その通りだと思います。渡辺さんは、おいしいものが好きなのはもちろん、話題のスポットを知っていたり、いわゆる流行に対する感度が高いので、前橋にいながら東京で求められているものの感覚、想像がついたんだと思うんです。
もともとIT業界にいたのでスケジュールを決めて効率よく運用することは日常業務でしたから、農家にとってはめんどうな請求書のデータ送信やオンライン会議、LINEを使った報連相なども、かえって当たり前のことだったと思います。
そういった個性を生かした適材配置についても考え、渡辺さんなら桑垣さんと一緒に進めてくれそうと思ったので、お願いをしました。
桑垣:今は形もできて私と渡辺さんのLINEのやりとりでできるようになりましたもんね。
農家にとって大切な現金化の窓口、キッチンカーがその可能性を広げる
大慈弥:最後に、今後のことをお話ししたいです。ZUCIがやられているキッチンカーを私たちも群馬で始めることができました。
キッチンカー事業も、ZUCIの大きな強みの一つだと思うんです。津田沼駅のような駅前から千葉ロッテマリーンズの本拠地「ZOZOマリンスタジアム」だったり、1日に何百食も出す現場を年間で回していることを教えてもらって、ジーシーシーアグリテックでもやりたいと思いました。
ちょうどジーシーシーアグリテックの親会社の株式会社ジーシーシーがJ2のザスパクサツ群馬の練習場を「GCCザスパーク」としてネーミングライツを取得したこともあって、自分たちで育てた野菜を使ってZUCIに加工商品を作ってもらい、スタジアムフードとして販売する形で半月ほどキッチンカーを動かしています。
自分たちで育てたものを加工して、売り先もつくる、そんな夢の手前の小さな新しいことですが、ZUCIのキッチンカー事業との出会いがきっかけに動き出しました。
桑垣:そもそも私たちがキッチンカーや飲食をやる理由は、はじめにお話ししたようにアジアンハーブの啓蒙をしたかったからです。
コンシューマーに対してアジアンハーブは、こういう使い方をするんだよということを、まずは食べてもらい知ってもらうことが目的なので、食べる場所はどこでも構わなかったのでテイクアウトっていう方法をとりました。
そしてもう一つ大切なのがキャッシュフローです。指定野菜や特定野菜になっていないパクチーなどのアジアンハーブは、天候不順や病気が原因で不作になり、途端に収入がなくなるというリスクがあります。そのためキャッシュフローを生産とは別につくりたかったのです。
それは、アジアンハーブに限ったことではなくて、やっぱり農家はリスクを常に抱えてるものなので、アールイーを窓口にジーシーシーアグリテックと一緒にセーフティーネットをつくっていきたいので、今後も加工品という形で私達からも協力することができればいいと思っております。
大慈弥:新しい時代の農家の姿があるのではないかと思っています。こちらこそこれからもよろしくお願いいたします。
株式会社ZUCI
2012年、タイハーブの研究から事業が始まる。2018年に法人化。種苗の輸入販売、ハーブ関連加工品の製造・販売・輸入のほか、国外から種を輸入し、アジアンハーブの栽培を自社で開始。関東をはじめとする契約農園とともにアジアンハーブを生産・卸販売も行う。また、飲食事業として千葉・津田沼にテイクアウト専門タイ料理店「Little ZUCI」やキッチンカー「Little ZUCI ジャスミン」の運営、冷凍アジア料理のプライベートブランド「GRAND ZUCI」などを展開する。
オフィシャルWEB:https://zuci.co.jp/