2025.10.17 Column & Interview

アールイーがマルシェに取り組む理由とは

アールイーでは、東京都産の農産物の認知拡大、販売促進を目的としたマルシェを地域の企業と共同で行っています。コピス吉祥寺で開催している「農to~のマルシェ」シリーズや、ルミネ立川での「あおぞらマルシェ」などです。

東京は日本最大の消費地でありながら、自給率はきわめて低く、ほとんどの食料を外からの供給に頼っています。もし物流にトラブルが起これば、都市の食卓はすぐに揺らいでしまう、危うい状態であるともいえます。

しかし一方で、東京にも農家は存在しています。八王子や町田、立川など多摩地域を中心に、野菜や果物を育てる人々がいます。東京で農業が行われているという事実は、まだ多くの方に知られていないのではないでしょうか。確かにスーパーの店頭では、東京産と明確に打ち出された野菜を見かける機会は多くありません。そこにマルシェを開催する理由があると考えています。

東京の農産物流通には特徴があります。全国的には、農産物はまず卸売市場に集まり、そこからスーパーや小売店へと流れていく「市場流通」が一般的です。しかし東京都の場合は、市場を経由しない「市場外流通」が大多数を占めています。

つまり、多くの生産者が店頭で農産物を販売したり、直売所に出荷したりするほか、自ら販売先を見つけ、スーパーや青果店へ直接出荷しているのです。消費者にとっても、生産者から直接農産物を購入できる産地直送サービスが浸透しており、東京という都市は、農業と生活者が直につながりやすい環境にあるといえます。

そこで市場を介さない取引に慣れている東京の生産者と、都市で暮らす消費者が、顔を合わせてやりとりできる場としてのマルシェの可能性を考えます。これは、すでに存在している東京ならではの流通の形を、より開かれた場所へと発展させる営み・カルチャーへの挑戦です。農家が「売り先を確保するため」に足を運ぶ場であると同時に、消費者にとっては「東京の農業を知るきっかけ」になるのが、このマルシェだと思っています。

物流の観点から見ても、このマルシェは重要です。東京産の野菜は、他県産のものと比べると圧倒的に輸送距離が短く、鮮度を保ったまま都市部に届けられるという強みがあります。朝採れた野菜が、昼にはマルシェに並ぶ。こうしたスピード感は、大規模な市場流通にはない魅力です。都市に近接して農業が営まれているという東京の地理的条件を、最も活かせるのがマルシェという形態なのです。

さらに大切なのは、東京の農業を身近に感じてもらえることです。首都圏に暮らす人の多くにとって、「農業」はどこか遠い場所で行われているイメージが強いと思います。しかし実際には、自転車で数十分移動すれば、広がる畑や農家の営みを目にすることができます。マルシェは、その「都市と農業の距離感」を肌で実感できる窓口になります。

アメリカ・カリフォルニア州から世界に広がった「Farm to Table(農場から食卓へ)」という運動があります。カリフォルニア州バークレーのレストラン「シェ・パニーズ」が提唱したもので、農家と食卓の距離を近づけることで、地域性や季節感を尊重しながら食の循環をつくることが、その根幹にあります。

アールイーが取り組む「農to~のマルシェ」や「あおぞらマルシェ」でも、東京都内の生産者が自ら野菜を持ち込み、消費者と直接触れ合うことで、同じように食材・人・情報の循環を生み出しています。野菜を買うだけでなく、生産者から直接栽培方法を聞いたり、旬の食べ方を教わったりすることで、東京の農業がぐっと近づくのです。

私たちアールイーは、マルシェを単なる販売の場にとどめるつもりはありません。東京の野菜が持つ可能性を、消費者とともに再発見する場。都市で暮らす人が、食を通じて地域の生産と直接つながる場。そして、東京の農業の未来をともに考える場。そうした広がりを見据えて取り組んでいます。

東京の野菜は、決して珍しい存在ではありません。しかし、その存在意義を改めて伝え、実感できる機会はまだ十分ではないと感じています。だからこそ、マルシェという形で可視化し、直接触れていただくことが、何よりも大切なのです。自治体や地域の企業とこういった考え方をともにして起こっているのがアールイーが取り組んでいるマルシェです。

東京産野菜を暮らしのなかに根づかせていく――それが、私たちアールイーがマルシェを続ける理由です。

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