2026.05.15 Column & Interview

都市農業の未来は、つながりから生まれる|女性農業者グループ「花果野マルシェ立川」浅見恵子さん

東京都の農業は、いま大きな転換点に立っています。東京都の総農家数は2000年に9,567戸となり、調査開始以来初めて1万戸を割り込みました。この30年でほぼ半減し、直近10年間でも27%減少しています。

また、基幹的農業従事者の平均年齢は65.6歳に達し、高齢化も進行しています(出典:東京都「東京農業振興プラン」)。農地面積も2011年からの10年間で1,190ha減少(同出典)しているほか、相続に伴う農地の減少、生産資材価格の高騰、担い手不足など、東京都の農業は厳しい環境に置かれているといえます。

東京都では、農業従事者のおよそ半数が女性といわれています。これまで収穫や調整作業が中心でしたが、近年は農業経営の中核に入り、自ら作付計画を立て、栽培や販売に取り組むケースが増えています。女性ならではの視点が新たな東京の農業の魅力の発信源になると、注目を集めています。

偶然の出会いから生まれた女性農業者同志のつながり

立川市の女性農業従事者が集まり「花果野マルシェ立川」が誕生したのは、2024年のことです。現在は10名で活動しており、年2回のマルシェを立川市役所で開催するほか、市内外での研修やマルシェの実施など精力的に活動を展開しています。「花果野」という印象的な名前は、メンバーそれぞれが花や果樹、野菜など多様な農産物を生産しているので、一目でわかるように頭文字を取って名付けられています。

結成のきっかけは、2023年9月、当時中央農業改良普及センター(現・北多摩農業普及センター、以下、普及センター)が主催して開催されたハーブ栽培講習会に、立川市の女性農業従事者で、結成の中心人物である浅見恵子さんが参加したことでした。

「立川市にこんなに頑張っている女性農業者がいるんだということにびっくりしたんです。農家は、毎日畑仕事があって皆さん忙しいです。家と畑の往復になることが多く、同じ農家の方と会う機会がない。さらに年代が違う方とはなかなか出会う機会がありません。そんな時にハーブ栽培講習会に参加した際に会場には、幅広い年代の方々がいらっしゃっていたんですよ。皆さんいきいきしていて、『頑張っている人がこんなにいるんだ』と刺激を受けたとともに勇気をもらいました」

その会場には、後に活動をともにする「オカベナーセリー(岡部園)」オカベアキナさん、「シマダファーム」嶋田すみ枝さん、嶋田美砂子さん、「田中NOH園」田中明子さん、「馬場ファーム」馬場紀代美さん、「弥生蔬菜園」さん、「AYASAYA FARM」嶋田靖子さんなど立川市内の女性農業従事者が集まっていました。

それからすぐに浅見さんは、普及センターの担当者に相談をして茶話会を企画し、再び集まる機会をつくります。

家事や育児、介護をしながら農作業を続ける難しさ、家族経営のなかでの役割、農地や経営をめぐる悩みなど、年代や事業規模の違いはありながらも共通する思いが共有されていきました。また、食育への関心や、女性がより活躍できる農業のあり方についても話題が広がったといいます。

「みんな大変だったと思うのですが、明るく話をしてくれて『何か一緒にやりたいよね』とポジティブな方向に向かったんです」と浅見さん。さらに「日頃、横の繋がりがないなか、同じ環境で働く人たちと繋がりが出来ました。素晴らしい仲間と出会えて本当に良かったと思っています。今は仲間とマルシェをすることがとても楽しく充実しています」という浅見さんの明るい人柄も、グループ結成を実現した大きな要因でした。

こうしたつながりによって、都市農業の新たな可能性といえる「花果野マルシェ立川」が動き出したのです。

お客様に直接商品の説明をしたことがきっかけで「食べたい野菜」をつくるように

「あさみ農園」は、立川市で12代続く農家で、江戸時代から江戸城下と多摩地域を結ぶ道として古くから利用されてきた五日市街道沿いに母屋と畑があります。現在は年間で約35種類前後の野菜を育てる少量多品目を生産している農家です。

五日市街道は、山間部の産物や農産物を江戸へ運ぶ交通路として発展しました。武蔵野台地に広がる畑で育てられた野菜や薪などがこの道を通って江戸の町へと運ばれる、江戸の食生活を支えてきた食と農の道でもあります。

現在でもこの街道沿いには、古くから続く農家や植木屋が多く、旧家の敷地内には周囲の建物をはるかに凌ぐ高さのケヤキの大木が残るなど、往時の面影を残しています。

「露地栽培が中心で、 以前はホウレンソウや小松菜、ネギ、トマトといった特定の野菜だけを育てて、それを市場に出荷していました。ときには、明け方にトラックに収穫した野菜を積んで多摩地区や都心の市場にも運んでいたという話も聞いたことがあります」

しかし、日本各地の流通網の確立と都内の宅地化によって東京の農業が減少していくと、大規模な単一作物ではなく、季節ごとにさまざまな野菜を育てる多品目栽培に東京の農業は向かいます。あさみ農園も同様に、経営転換が迫られることになります。15年ほど前のことです。                          

「今は、夫とともに話し合って、従来の季節野菜の他に今までに作ったことがないような、自分たちも食べてみたいと思える野菜を育てることにしました。2009年に立川駅南口にJAみどりの直売所『みどりっ子』ができて、そこであさみ農園の野菜を自分で店頭に立って野菜の説明や食べ方などを直接消費者に話す機会があった時期でもあります」

それまではスーパーや産直マーケットに出荷はしていましたが、お客様の声を直接伺うのは「みどりっ子」が初めてでした。「購入したお客様の声を聞くのは、嬉しかった」と浅見さん。もっと喜んでもらえる野菜をつくりたい、安心して買ってもらえるように有機肥料を使用したり減農薬や農薬もできるだけ使わずに育てたいという思いも生まれてきました。農家の喜びとともに、産地に近く消費者に近い場所で農業をするからこその農家の役目に気づかされたのです。   

 「農toマルシェ」が広げる新しい販路

「東京で農業をするのは、もちろん食卓に並ぶ食材を供給するのはもちろん農業の大切さを伝える役目もあると思っています。現在、日本は食料の多くを外国から買っています。食料自給率(カロリーベース)は近年38%前後といわれ、先進国のなかで最低水準です。世界情勢が不安定ななか外国に頼り続けたままでいいのかという疑問もあります。東京に住む人たちにも、農業について考えるきっかけをつくるためにも消費地に近い場所で農業を続けていくことは重要なことだと、夫ともよく話しているんです」

そんな浅見さんが期待を寄せているのが、アールイー株式会社が企画・運営を行う「農toマルシェ」への参加です。コピス吉祥寺を会場に、年に3回開催しているマルシェイベントに「花果野マルシェ立川」として、2025年11月の「農toチーズのマルシェ」から参加を続けています。

じつは「あさみ農園」のような小規模農家にとって、マルシェのように売り先が確保できる機会は極めて重要です。もちろん、通常の卸先の地元のスーパーや産直市場は、農業経営の基盤になりますが、それとは異なる売り先にある程度の量を出せることで、それに向けて作業計画が立てられるメリットがあるといいます。

「とくに『農toマルシェ』では、6月と11月、2月と決まっているので、メンバーと共有しながら、『それなら私は、この野菜をつくるね』とか『次はこんなのが売れるかも』と話し合いながら作付計画もつくりやすいのでありがたいんです。それに、お客様に直接『新鮮で美味しそうだね』『おいしかったよ』って言っていただけると、それだけでとても励みになりますし、育て方やおすすめの食べ方などを伝えることでやりがいも生まれます。お客様とも自然と会話も広がっていき農業への理解にも繋がっていると思います。そして、マルシェを通してお互いにアイデアを出したり支え合うことで横のつながりや絆も生まれます。たわいない話をするのもとても楽しいですね」と、対面販売の価値も大いに感じているといいます。

また、マルシェのフードコーナーも楽しみの一つだと浅見さん。「農toマルシェ」の企画では、マルシェで野菜を販売するだけでなく、マルシェで販売されている野菜を使って、現役の料理人が考案した特別メニューをキッチンワゴンで製造・販売しています。自分たちが育てた野菜をプロの料理人の手によって生まれ変わった料理を楽しめるのも、生産者としてうれしい体験でもあります。

都市農業が抱える二つの課題と都市農業の未来をつくるつながり

「花果野マルシェ立川」の取り組みを通じて、女性農業従事者のメンバーとともに前向きに楽しく東京の農業の姿を伝えている浅見さんは、その取り組みを続けるには2つの課題があるといいます。

一つはこれまでも話に上がっている「売り先」の課題です。グループの活動を通じて、前向きに農業を続けたいと思い、たくさんの野菜を育てたとしても、売り先がなければ経営は成り立ちません。さらに、規格外商品の売り先の確保も小規模農家にとっては大きな課題です。

「規格外でも買い取ってくれる産直市場もあるのですが、まだまだ少ないです。規格外の野菜を加工して六次産業化商品の開発などは、アールイーさんが取り組まれていると伺ったので、流通を含めて相談させていただきたいと思っています」

もう一つの課題は、農地相続の課題です。立川市だけでなく、東京の都市農業では、大きな課題となっています。

地価が高い地域では、相続が発生した時に母屋まわりの宅地の税負担が大きく、農業を続けたいという意思があっても土地を手放さざるを得ないケースがあります。年々、農地が減少しているのが現実です。

「農家は頑張って畑仕事をしているのに、残念でなりません。義父は生前『今があるのは先祖が残した農地があるからだ。先祖が残した農地を守っていくのが大事だ』とよくその旨の話をしていました」

都市のなかで農業を続けることは、合理性だけでは説明できない選択が数多くあります。それでも農地を守り、野菜を育て続ける農家がいることで、東京の食とその風景は支えられています。都市に残る農地は、単に野菜を生産する産業ではありません。地域の食を支えるだけでなく、子どもたちが自然や食に触れる場であり、都市の風景を形づくる大切な存在でもあります。

だからこそ、農家同士がつながり、地域と関わりながら農業を続けていく取り組みが重要になります。「花果野マルシェ立川」の活動は、都市農業の価値や課題を改めて社会に伝えていく試みとして、これからますます意味をもっていきます。

アールイーも東京都の農業を販売や流通、商品開発などで「稼げる農業」のサポートをしていきながら、農家さんが抱える本当の悩みを話してもらえる存在になり、そのことを議論するきっかけになるような、場所や機会の創出・取り組みをしていきたいと考えています。

あさみ農園
公式Instagram:https://www.instagram.com/asami_farm2024/

text & photos by Ichiro Erokumae

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