「アールイーインタビュー」は、アールイーがともに事業をすすめる事業者の担当者様をお招きして、今井や大慈弥とともに取り組んでいる事業を通して「食」や「農」の未来を語り合う企画です。
第1回は、株式会社ジーシーシーアグリテックです。
株式会社ジーシーシーアグリテックは、群馬県前橋市に本社をもつIT企業、株式会社ジーシーシーの子会社です。親会社が持つ情報技術やそのノウハウを生かし、農業にテクノロジーを組み合わせた「アグリテック」に挑戦することを目指し、2022年3月に設立されました。この農業参入に弊社大慈弥が取締役として参画しております。
インタビューでは、ジーシーシー取締役の笠原守さんと、IT事業者が農業をする理由、その難しさ、そして今後の展望などを語り合いました。
地域の課題の解決とともに自社の雇用延長を可能にした「農業」という選択
大慈弥晶土(以下、大慈弥):ジーシーシーは、来年2025年で創業60年になりますね、おめでとうございます。主な業務としては、地方自治体の情報システムの開発、運用保守のほか、納税通知書などの印刷、封入封緘、配送などのアウトソーシングも実施されています。 そんなジーシーシーがなぜ農業に進出したのでしょうか。
笠原守さん(以下、笠原):おっしゃるとおりジーシーシーは自治体が主なお客様で、県や市区町村に情報システムを導入しています。現在の社員数は700人程で、当社の社員は自治体業務を通じて地域社会との関わりを強く感じる機会が多くあります。
その一方で、会社の更なる成長に向けて、10年以上前から新規事業の開発は課題になっていて、新事業のアイディアの一つに農業がありました。
本社の周辺にも田んぼや畑が多くあるように、群馬県は農業が身近にある地域です。社員の身内や友人の中には農業に関わっている方もいます。農業は地域との親和性が高く、お客様である自治体と社員の双方から共感を得られる可能性が期待できました。
また、ジーシーシーは創業時から地域社会への貢献を事業目的としていて、地元群馬県で農業に携わり、安全で安心な食を地域に届けることができれば、この上の無い地域社会への貢献を果たせますし、そこにITを活用することで、農と食に携わる方たちのご支援ができれば、さらに大きなスケールで貢献ができると考えました。
大慈弥:全国でいえることですが、前橋市や同県内の高崎市の自治体では、耕作放棄地が増えて農業の担い手がどんどん減っているという課題があったそうですね。
笠原:はい、前橋市や高崎市の田畑は小さくて、北海道のように大規模農業ができるわけではありません。そのためなかなか生産効率も上がらないですし、生産者の高齢化も重なって農業従事者は年々減っているようでした。小さい田畑が点在している状況ですが、私たちがこれまで培ってきたITの力をうまく使って、こうした状況でも生産効率を上げていければ、地域の耕作放棄地を減らすことになります。
大慈弥:地域だけでなく、会社としても雇用を生み出すチャンスだったという話しも聞かせてください。
笠原:はい。ジーシーシーは、前橋市に本社があります。700名の社員のうち、8割程度の社員がエンジニアです。IT業界の技術の変遷は著しく、エンジニアの社員たちに第一線のシステム開発を続けてもらうのは難しい場合もあります。
そういったときに新しい活躍の場として、ITを駆使した農業で力を発揮してもらうことができるのではないか。長く会社に貢献してきた社員に対して、定年後もこれまでとは違った形で働く場を提供できるのではないかと考えました。
地元の自治体に対しては耕作放棄地や地産地消の取り組みで貢献でき、地域の農業従事者の方たちには生産性の面で貢献でき、ジーシーシーの社員の定年後の雇用先としても活用できると考えたときに、事業として成立するであろうし、成立させたいと思えたものが農業でした。そんな経緯もあって、ジーシーシーアグリテックが生まれました。
農業を軽くみていた。システム開発と違い予期せぬことばかりが起きてばかり
大慈弥:ジーシーシーアグリテックが具体的に動き始めたのは、前橋市の上大島町や下大島町などで栽培される「大島梨」でしたね。
笠原:江戸時代から続く伝統果樹の大島梨は、収穫量は最盛期の半分になっているといいます。耕作放棄地になってしまった畑も多く、生産者も減っています。実際、梨の樹がばっさりと全部切られて宅地化してしまう光景も目にしました。
樹が切られた畑を見るとやるせない気持ちになります。慣れ親しんできたブランド梨がなくなるのも辛い。まず初年度に大島梨の生産を計画しました。
大慈弥:具体的にはどんなことをしていますか。
笠原:神奈川県が特許をもってるV字ジョイントという生産方法を採用して、今年から本格的に生産を開始しました。
梨組合の勉強会に行ったり、生産者さんの話しを聞いたりしてみると、剪定や収穫などの作業が生産者の方によって微妙に違っていました。職人感覚というか。その感覚は素人には掴めないと思いました。
その点、V字ジョイントは苗を等間隔に一列に並べて育て、枝を前の枝に接木することで成長を早められますし、剪定をはじめさまざまな作業で判断・管理がしやすくなります。一列なので作業効率もよい。そういった生産方法で経験を積んでいる段階です。
大慈弥:農業は大変ではなかったですか?
笠原:農業を軽く見ていた部分があったのかもしれません、想像以上に大変でした。サツマイモや葉物野菜、その他の露地野菜の生産に携わるメンバーから話を聞くと、夏場は毎日のように草刈りをしていますし、いつの間にか虫にやられることもある。雨は降ってほしいですが、最近のゲリラ豪雨のような状態では作物に影響が出るなど、当たり前ですがシステム開発と違って予期せぬことばかりが起きています。
本格的に生産を始める前に、JA前橋からのご紹介で群馬県前橋市のネギ専門農家の中屋智博さんにお会いしました。中屋さんは、「数式ねぎ」というネギ栽培のデータを取り入れた独自の栽培システムを構築されている方です。
お話を聞くと気候情報や苗を植えた日といった情報を細かくとって栽培に反映していらっしゃいました。そういうアプローチをされている人がいるのだから、私たちも諦めてはいけないと思いました。 今は気象条件や栽培管理のデータを取り溜めています。しかし、データがとれるのは年に1回。これは地道な厳しい道になりますね。
大慈弥:大島梨については、あと3年でジーシーシーアグリテックで収穫したものを市場に出すことを目指していますね。販売価格については、地域の市場ではある程度の金額が決まっています。そのバランスは崩せないですし、私たちが競合になっても意味がないので、地元で売るのはやめようと話しています。
笠原:市場や流通経路の開拓、消費者の目線といった部分で、アールイーさんの知見にすごく助けられています。私たちには持ち合わせていないものですから。ジーシーシーアグリテックの独自の販路が重要ですので、会社設立後にECサイトを立ち上げて、大島梨を地域外に販売していく準備をしています。
ECサイトは群馬県にゆかりのある品物を取り扱っています。大島梨のほか、自社で生産したサツマイモを使った商品などもあります。一つひとつの商品には生産者や作り手の方たちの想いがあり、その想いもECサイトで届けていきたいと考えています。自社の利益だけではなく、アグリテックに関わってくださる生産者の方たちなどにとっても、単純にECサイトでモノが売れる以上の価値を感じてもらえれば、自社の成長にも繋がっていくし、より大きな地域貢献を果たせるという視点も、大慈弥さんたちから教えていただきました。
大慈弥:ジーシーシーグループの社員およそ1200人の福利厚生で、年間1万円使えるというアイディアもいいですよね。社員が改めて群馬のものを知る機会になるわけですから。
笠原:群馬で暮らす社員でも知らない商品があり、社員からは好評です。また、ECサイトでお買い物ができるギフトカードも準備していて、取引先の会社に訪問する際などに手土産の代わりにお渡ししています。そのときに、グループ会社が育てた農産品が原料になっているとお伝えできるのもいいんです。
「付加価値のある市場づくり」は、生産者にとっても販売者にとってもwin-win
大慈弥:笠原さんが、アールイーが市場や消費者の視点を導入したと言ってくださり、手前みそながら、そこが私たちの「強み」だと思っています。
ジーシーシーアグリテックの技術が進んで量産が可能になったとしても、自分たちで売る力がなければお金になりません。アールイーが農業に直接関わることでできることは、この価格形成をできるだけ主導的に握っていけるようにすることが役目です。それは品目だったり、売り先だったり、他にもさまざまありますが、その選択肢を多く持つことを心がけています。
たとえば私たちはサツマイモも栽培していますが、菓子メーカーに卸したとしても私たちは単純にサツマイモを納めるだけではなくて、菓子会社がつくる商品企画を手伝ったり、新しい販路をつくったりというように、増産・販売に自分たち農業生産者が関与できるようにすることが重要です。産地から消費者まで、川上から川下までを自分たちで責任をもつというスタイルを目指すことがこれからの農業に大事なことだと思っています。
笠原:最初は、とにかく育てることに精一杯だったんですね。収穫したらそれをJAさんに卸して終わり。でもそうではなくて、自分たちで生産しているモノの価値をきちんと伝えて、顔の見える相手に販売することが大事だと大慈弥さんはおっしゃっていて。そのことで私たちは単に「製品」を製造しているのではないということに気づかされました。
たとえば高崎市にある菓子店の「旅がらす本舗清月堂」は、ジーシーシーアグリテックが育てた「シルクスイート®」という品種のサツマイモを使った「シルクスイートポテト」という「商品」を製造しています。
シルクスイート®は、前橋市に本社を置く種苗会社で、群馬の農業を支えるカネコ種苗株式会社が開発したサツマイモ品種です。「シルクスイートポテト」は、2022年に地産地消の推進、食の安心安全の確保、前橋産農林水産物の消費拡大に取り組んでいる産品に与えられる「赤城の恵ブランド」に認証され価値が高まりました。まさにオール群馬の商品です。
自分たちが生産している農産物が誰に届いて、どのように付加価値が付けられて、誰が期待してくれているかが見えることは、生産している社員たちにとってすごく大切です。モチベーションがあがっただけでなく、期待に応えなければという責任感も高まり、好循環が生まれています。
大慈弥:すごくいい循環ですよね。前橋市で農業をするというのは、先ほども話にあったように、北海道のように50haや100haというような巨大な面積でやっているのとは違います。1haとか小さな農地ですから。1個50円でも大量に売れば利益がでるものではないのです。そうなると、付加価値の高いところで勝負しないといけない。自分たちの生産能力とか技術力を徐々に上げていく中で、得意先をしっかり掴んで、経済の循環を作っていく。付加価値のある市場を選んでいくことの意味がそこにあると思います。
笠原:とりあえずやってみようという勢いは大切ですが、それをどう流通にのせるかという点が、その後の継続性を考えても、すごく重要なんだと思います。
ビジネスマッチングで、あるレストランがこういうものを欲しがっているから、生産してくれる農家を探していますというのは、どちらにも最初から余裕がなければ続かないんじゃないかなと思っています。
大慈弥さんがされていた「付加価値のある市場づくり」という話しは、生産者にとっても有難いですし、農産物を仕入れて最終的に販売する側にとってもプラスになるものだと思います。相互に価値を高めていける話になります。
まさにこの市場づくりの部分で、私たちの想像以上の可能性を持ってきてくれるのがアールイーさんです。農業は生産だけではなく本当に幅広く、様々な人たちが関わっていて、そうした人たちとの繋がりをつくるところは自社だけでは到底できませんでした。アールイーさんのこれまでの経験や人脈、交渉力のおかげです。
ジーシーシーアグリテックはまだ立ち上げたばかりの農業法人で、相手方には恐らく「大丈夫、本当に?」という不安がある筈です。実際に、市内の上州農産の松村さんから初めて土地をお借りしたのですが、そこもアールイーさんが間に入って、「ジーシーシーアグリテックと一緒にこういう未来をつくりましょう」とビジョンを示してくれます。お互いが「もっとよくなる」ためのフレームをつくってくれる存在です。
IT、農業、食IT、農業、食、スポーツでオール群馬のプラットフォーマー的役割を担いたい
大慈弥:ジーシーシーグループは、地元のサッカーチームでJ2のザスパクサツ群馬を応援していますよね。2024年に完成した練習場とクラブハウスのネーミングライツを取得して「GCC ザスパーク」としてさらに地域との関わりが深くなっています。
笠原:ザスパクサツ群馬との関わりで言えば、ザスパクサツ群馬で2023年までゴールキーパーをやっていた清水慶記さんとジーシーシーは顧問契約を結んでいます。将来的にはジーシーシーアグリテックでも活躍していただきたいと思っています。
というのも清水さんは、ご自身でマフィンやチョコレートを開発されていて、食の領域への挑戦を始めていらっしゃいます。アグリテックと同じで食への挑戦という部分に共感し、地元サッカークラブで活躍されたアスリートのセカンドキャリアをご支援したいとの思いと、こういう形で地元のスポーツクラブを応援していくことも地域社会への貢献に繋がるとの考えです。
また、「スタジアムグルメ」の領域でも、ジーシーシーアグリテックは自社栽培の野菜を使った商品をキッチンカーで販売しています。 IT、農業、食、スポーツをつないでオール群馬のプラットフォーマー的な役割を担っていきたいという話を、日頃からアールイーさんとしています。
大慈弥:今から話すことは、単純な対象にしちゃいけないことなのですけど、日本の大企業とジーシーシーのように資本力もあって地域に根差したローカルのいい会社って、まったく価値が違うと思っているんです。いわゆる大企業と同じようにローカルに根差した会社はこれから価値が高くなるんだろうと感じますし、群馬に来てそれをさらにすごく強く感じました。 なにしろ”目の前の庭先”をよくしようっていうことが、実際自分たちの手でできますから。それは、すごい力だなと思います。
笠原さん、本日はお忙しい中ありがとうございました。
笠原:こちらこそありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
株式会社ジーシーシーアグリテック
2022年3月、株式会社ジーシーシーのグループ企業の一つとして設立された、親会社であるジーシーシー、その他のグループ会社と同じく、地域社会への貢献を主たる事業目的とする。ジーシーシーは、1965年に群馬の地で創業。設立当初から地方公共団体の事務作業をコンピューターで集中処理することで、地域の電算化を進めてきた。現在は、地方公共団体向けの情報システムを自社開発し、そこで取り扱う大量のデータを最新のデータセンターで預かり、集中管理を行うなど、幅広く行政のデジタル化を進めている。そのジーシーシーが、農業に本気で挑戦する場所がジーシーシーアグリテックである。
オフィシャルWEB:https://www.gccagri.jp/company/