2025.09.28 Column & Interview

食料自給率0%の東京都農業が社会に貢献する、数字では測れないもの

東京都の食料自給率はカロリーベースで0%、生産額ベースで2%(ともに令和4年、農林水産省データ )になっています。これは、47都道府県で最下位の数字です。ちなみに、同じように自給率が1桁なのは、神奈川県(カロリー2%、生産額10%)、大阪府(カロリー1%、生産額5%)だけです。

しかし0%といっても、本当にゼロ(まったく農業はされていない)ではなく、小数点以下の数値として微量ですが生産はされています。実際に、東京都の耕地面積は、6,290ha(2023年時点)で、東京都の総面積の2.8%に相当します。

しかしながら日常生活において、特に都心部では「東京都産」の野菜や農産物を見ることはありません。江戸時代に江戸川区の小松川付近で栽培が始まり、将軍・徳川吉宗が命名したという「小松菜」でも、茨城県産や神奈川県産のものをスーパーでみかけこともあり、東京都産のものを探すのは難しい状況です。

ただし、一部の都市部のスーパーでも産直コーナーのようなものがれば、東京都産の野菜を見かけることはあります。

東京都市部という日本最大の消費地近くで栽培しているのに、価格の面で遠くの産地に及ばず「東京産はお高い」というイメージがあるのは、なんとも不思議で疑問が残ります

レストランなどの外食店では遠くの産地の産品が好まれ、スーパーには遠くから集めた安い産品が並ぶ。仮に、あなたが東京都の農家だったら「別に東京で農業する必要がないじゃないか」と考えることもあるのではないでしょうか。

しかしそんななかでも東京都内で農業をしている人たちは、確実にいます。どんな販路をもって東京都内の農家さんたちは農業をしているのでしょうか。私たちの周りで農業をする方々を取材してわかったことを書いてみたいと思います。

産地をまわって感じたこと

八王子市の「中西ファーム」は、主要の農産物をおかず、季節に合わせてさまざまな野菜を育てる、いわゆる「少量多品種」の農家さんです。

中西さんたちは、東京の都市部にほとんど品物を送らず、農業近隣のスーパーに直接販路を開拓し商品を卸しています。さらに畑がある場所の近くに、新興住宅地・みなみ野地域があり、その住民をターゲットに週末に直売会をしたり、産直マーケットに出品しているそうです。

さらに、とくに小学生のボランティアを受け入れながら農業体験をするなど、地域の連携を強めています。

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同じく八王子の「もぐもぐファーム」は、自社販売所をもち、自社畑で採れた野菜以外にも、地域の農家の野菜を集めて販売しています。さらには、旬の時期に採れすぎた作物を加工して販売するなどもしており、地域の農家の収入をあげる、付加価値をつける取り組みをしています。

地域の生産者さんと協力することで、独自のコミュニティを形成していました。

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東久留米市の「たかはし農園」は、菌床シイタケを栽培しています。品種は北研902号というもので、スーパーなどに一般的に流通する北研901号や森XR2号に比べて小ぶりだが身が厚いのが特徴です。

北研901号や森XR2号は、パックに並べやすく量も入ることもあって、流通の面で好まれているが、あえて北研902号を扱うことで、地元のスーパーの遠方からきたシイタケとの差別化を図っていました。こちらも、地域の販売状況をよく見た戦略だといえます。

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国立市の「西野農園」は、東京で珍しいお米を栽培する農家さんです。

西野農園は、お米のほか野菜も栽培しているそうです。園主の西野さんとは、数度お会いしているので、ぽろっと本音を聞くことがあるのだが、農業だけでは食べていくことはできず、もともと持っている土地を使った不動産業も並行しているといいます。

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じつは、東京の農家の多くは、数代続く農家であり土地を持っていることも多く、不動産業を営みながらその土地を手放さないために(手放すことで膨大な課税の対象になることも)農家をしているという実情も、多くで垣間見ることができます。

代々の土地に愛着があるというのは、新興住宅地に生まれた人にはイメージがつかず、その感情を真に理解することは難しいかもしれませんが、想いとして理解することはできます。

「日本の食料自給率に影響を与えられないから意味がない」というのは、農業を産業と考えた場合のことで、「代々の土地を守る」という代々続く営みを続けることが農業を続ける動機に十分になるのも想像することはできます。

・地産地消
・地域の教育や学習
・六次化による地域経済の活性化
・住民自治
・景観美化

訪問先はわずかですが、それぞれの農園の取組を見ただけでも、カロリーベースの自給率などでは図りきれない存在意義があることに気づかされます。

都市型農園とも呼ばれる東京都の農業の存在は、私たちに農業を産業と営みの両面で見るべきであることを伝えてくれているように感じます。

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