人口約29万人、約20万世帯が暮らす東京都豊島区。区内23か所の公共施設で2006年から続く家庭系廃食用油の回収事業は、約20年の歴史を持つ先進的な取り組みです。近年、廃食用油がバイオ燃料やSAF(持続可能な航空燃料)の原料として注目を集める中、その回収の社会的意義はこれまで以上に高まっています。
こうした背景のもと、豊島区では2024年より回収拠点を公共施設にとどめず、スーパーや信用金庫など住民が日常的に立ち寄る民間施設へと拡大する取り組みを開始しました。回収体制の構築やトレーサビリティデータの管理において連携しているのが、廃食用油の回収・再資源化を専門とする私たちアールイーです。
本対談では、豊島区環境清掃部ごみ減量推進課の有村課長と豊島区に本社を置くアールイー代表の今井が、行政と民間の協働による家庭系廃食用油回収の現状と課題、そして地域における資源循環の仕組みづくりについてお話しします。
<豊島区とアールイーの家庭用廃食油回収プロジェクトの現状>
- ⦁ 2024年5月より検討を開始し、同年11月に巣鴨信用金庫本店で回収をスタート
- ⦁ 豊島区の既存23拠点に加え、民間施設への回収拠点拡大を推進
- ⦁ 回収量やCO₂削減効果の可視化に向けたデータ管理体制を構築
- ⦁ 全国油脂事業組合連合会の回収ネットワークと連携した継続的な回収体制を確立
- ⦁ 行政・民間事業者の2社が役割を分担しながら、取り組みを継続
豊島区 環境清掃部 ごみ減量推進課長 有村博和氏
令和6年度より、ごみ減量推進課長として勤務。
本区の新たな基本構想・基本計画において、資源循環は非常に重要な要素であり、「共につくる地球にも人にもやさしいまち」をまちづくりの方向性の一つとしています。現代、豊島区のみならず日本各地において急激な都市化や人口増加に伴い、ごみ排出量が増加し廃棄物処理の負担が大きな問題となっています。特に廃食油の不適切な処理は環境への影響とともに資源の無駄遣いにつながる重大な課題だと考えています。
このプロジェクトを通じて廃食油の適切な回収と再利用を推進することで、資源循環の促進や環境負荷の軽減、さらに、区民の皆様の環境意識の向上に寄与できることを期待しています。今後も地域の課題解決と持続可能な未来を形成するための活動に取り組んでまいります。
今井
豊島区では以前から廃食用油の回収に取り組んでこられましたが、どのような背景から始まった事業なのでしょうか。
有村氏
豊島区では、資源の有効活用と環境負荷の軽減を図るため、2006年から区内の公共施設で廃食用油の回収を始めました。当初は、植物性の軽油代替燃料であるVDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)にリサイクルしていたのですが、対応できる車両が限られていたこともあり、2011年度からは、区民の方にリサイクル後のイメージが伝わりやすい石けんへの再資源化に切り替えました。
今井
長い歴史があるんですね。現在はどのくらいの拠点で回収されているのですか。
有村氏
既存の回収拠点は23か所あり、シルバー人材センターの方の立ち会いのもとで回収しています。ただ、回収日が毎月第4月曜の午前中に限られるため、平日お仕事をされている方にはなかなか出しにくい。日曜に回収している施設も1か所あるのですが、まだまだ拠点が足りないというのが正直なところでした。
拠点を増やすことの難しさと、民間連携の意義
今井
2024年5月から一緒に検討を始め、11月に巣鴨信用金庫本店への設置が実現しました。新たな回収拠点を広げていく中で、想定どおりにいかなかった部分もありましたか。
有村氏
やはり、思った以上に簡単に拠点を増やせるものではないと感じています。設置先にとっては、油をこぼす可能性や発火のイメージなど、懸念される点がいくつもあります。私たちの課としても、拠点の開拓そのものに直接動くことは難しい部分がありますので、できるだけ広報面で協力していきたいと考えています。
今井
自治体だけで回収網を広げていくのには、やはり限界があるということですね。
有村氏
そうですね。そうした中で、アールイーさんが中心となって新たな回収拠点の開拓を進め、全国油脂事業組合連合会の回収ネットワークと連携してくださったことは、今回の協働で最も大きな意義だと感じています。民間の力を活用して、区民のためになる取り組みを形にできている。これは行政単独ではなかなか実現できなかったことです。
今井
区として広報面でご協力いただいていることが、拠点を開拓する際の大きな後ろ盾になっています。「豊島区も推進している取り組みです」と説明できるのは、設置先にとっても安心材料になりますから。
有村氏
私たちとしても、区民の方が油を廃棄できずに困っているという声は以前から認識していました。こうした課題に民間の皆さんと一緒に取り組めることは、ありがたいことだと感じています。
今井
家庭から出る油を行政が受け止める以上、一般ごみと同様に、継続的かつ安全に運用されることが前提になりますよね。区としてはどのような点を重視されていますか。
有村氏
自治体には地域内の一般廃棄物の処理責任がありますので、始めた取り組みがすぐ終わってしまっては困ります。ですから、まず何よりも継続性を重視しています。その点で、全国油脂事業組合連合会の回収ネットワークは、単一の事業者だけに依存しない体制ですので、継続的な回収が見込めると判断しました。連携にあたっては、現地での確認もさせていただきました。もうひとつはコンプライアンスの観点です。家庭から排出される廃食用油をどのように取り扱うか、法的な整理を丁寧に進めていただけたことは、行政として非常に重要なポイントでした。
データの「見える化」が、次の一手を後押しする
今井
当社では、回収量やCO₂削減効果といったトレーサビリティデータをダッシュボードとして可視化し、豊島区さんにもご活用いただいています。こうしたデータの「見える化」について、区としてはどのようにお感じですか。
有村氏
回収状況を区民の方にわかりやすくお示しすることは非常に重要だと考えています。アールイーさんに提供いただいているダッシュボードでは、地図上で回収拠点や実績を可視化できるので、どのエリアに回収の見込みがあるか、どこが手薄かといった情報が一目でわかります。今後の拠点開拓を考えるうえでも大きな参考になりました。また、トレーサビリティデータは施策を推進するうえでも重要な情報であり、回収から再資源化までの流れを数字で把握できることは、行政としての説明責任を果たすうえでも欠かせないものだと感じています。
油の回収から広がるストーリーを、区民とともに
今井
豊島区の環境施策全体の中で、家庭系廃食用油の回収はどのような位置づけにあるのでしょうか。
有村氏
法制化されているプラスチックや、社会問題となっているリチウムイオン電池のような品目と比較すると、緊急性は低いかもしれません。ただ、資源循環とごみの減量という目的の中で、リサイクル率がまだまだ低いとされる家庭由来の廃食用油の回収は、他の資源と同様に重要な取り組みだと考えています。加えて、近年注目されているSAF(持続可能な航空燃料)への活用など、将来的な可能性にも期待しています。
今井
SAFは航空業界の脱炭素に欠かせない燃料として注目されていますよね。家庭の油がその原料になりうるというのは、区民の方にとっても身近に感じられるストーリーだと思います。
有村氏
おっしゃるとおりです。「自分の家の油が飛行機の燃料になるかもしれない」という話は、やはりインパクトがありますよね。そうした将来像も含めて、区民の方々に回収の意義をお伝えしていきたいと考えています。
家庭の台所から出る一本の油が、まちを動かす資源になる。豊島区とアールイーの連携は、行政と民間がそれぞれの強みを活かしながら、「捨てるもの」を「届けるもの」に変えていく挑戦です。
回収拠点の開拓、データの可視化、そして全国的な回収ネットワークとの連携。ひとつひとつは地道な取り組みですが、その積み重ねが、住民にとって無理のない形で資源循環に参加できるまちの仕組みをつくっていきます。当社は今後も、自治体をはじめとする地域の皆さまとともに、暮らしの中に溶け込む循環の仕組みを一歩ずつ広げてまいります。
(本記事は2026年3月に実施した対談をもとに構成しました)