てんぷらや揚げ物に使った油。多くのご家庭では、固めたり紙にしみ込ませたりして、「ごみ」として捨てているのではないでしょうか。でも、使い終わった油(廃食用油)は、集めれば燃料や石けんなどの原料になる「資源」です。
板橋区は、この家庭から出る油を、ごみではなく地域の資源として活かしたいと考えてきました。「ゼロカーボンシティいたばし2050」や資源を循環させるまちづくりにもつながるこの試みは、区民の皆さん一人ひとりの参加があってはじめて続いていくものです。だからこそ、資源の循環を区民みんなの"みんなごと"にしていきたい—その思いから、今回の取り組みは始まりました。
令和8年6月、板橋区は、アールイー株式会社、全国油脂事業協同組合連合会(全油連)、株式会社エコクリエイティブの3者と、家庭の廃食用油の回収・リサイクルに関する協定を結びました。これまでも区は油を回収してきましたが、今回は4者で力を合わせ、回収から資源化、区民の皆さんへの呼びかけまでを進めていきます。
協定の背景や、これからの取り組みについて、4者にお話を聞きました。
座談会出席者
• 雨谷 周治氏(板橋区 資源環境部長)
• 町屋 聖氏(司会/板橋区 資源循環推進課長)
• 中川 太氏(全国油脂事業協同組合連合会 会長)
• 堀 敦博氏(株式会社エコクリエイティブ 代表取締役)
• 今井 直樹(アールイー株式会社 代表取締役)
板橋区内で十数年「いつでも出せる」油の回収、次の一歩へ
― 板橋区の廃食用油回収は、区民まつりでの試みをきっかけに、十数年にわたって続いてきた取り組みです。今回の協定では、その積み重ねの上に、回収場所の拡大、回収量の『見える化』、区民の皆さんへの呼びかけまでを、4者で進めていきます。まずは、全体の調整役を担うアールイーさんは、この土台をこれからどのように広げていきたいと考えていますか。
今井(アールイー)
板橋区にお住まいの方はご存じかと思うのですが、区内には、家庭で使い終わった油をいつでも持ち込める回収場所がありますよね。これは、自治体としてとてもめずらしいことなんです。多くの区では、月に1〜2回、決まった日にシルバー人材の方が立ち会って集めます。好きなときに出せるところは、そう多くありません。東京のいろいろな自治体とお話ししてきましたが、これだけ自主的に、しかも常時回収できている区は本当に珍しい。まずは、その積み重ねがあること自体が、今回の連携の大きな出発点だと感じています。廃食用油の回収は、仕組みさえつくれば自然に広がる、というものではありません。区民の皆さんに知っていただき、実際に出していただき、集まった油が資源として活かされていく。この流れが続いてこそ、はじめて地域に根づきます。
今回は、その土台の上に、回収場所の拡大、回収量の見える化、子ども向けの体験やイベントでの呼びかけを重ねていきます。より多くの区民の皆さんに、参加しやすく、成果も感じやすい。そんな形にしていきたいと考えています。
町屋氏(板橋区)
今井さんのお話のとおり、区としてこれまでも長くごみの減量に取り組んできました。リサイクルできる品目が増え、ごみは着実に減ってきています。そして今、その次の一歩として注目しているのが、廃食用油なんです。区でも昨年度に計画を策定し、今年度から循環型・サーキュラーエコノミーのまちづくりを進めているところで、今回の取り組みは、まさにその方向性と重なります。区民の皆さんと一緒に、この流れを育てていけたらと思っています。
― 「集めた油は、そのあとどうなるんだろう?」そう思う区民の方もいるかもしれません。油を集めてから資源に変えるまでには、いくつもの工程がありますが、みなさんはそれぞれどんな役割を担うのでしょうか。
今井(アールイー)
アールイーは、全体のとりまとめ役です。あわせて、新しい回収場所を開拓・整備したり、どれだけ集まったかというデータをまとめて共有したりする役割を担います。
とくに力を入れたいのが、区民の皆さんが毎日の暮らしの中で立ち寄りやすい場所に、回収場所を増やすこと。商店街やお店、地域の金融機関など、ふだんの行き先に回収場所があれば、買い物や用事のついでに、気軽に油を持ち込めます。すでに、地域の金融機関にもご協力いただきながら場所を広げているところです。金融機関が窓口になって協力先を増やしていくやり方は、近隣の区でも実績があります。商店街の多い板橋区らしさを活かして、地域に根ざした協力先を増やしていきたい。廃食用油の回収を、特別な環境活動ではなく、暮らしの中で気軽に参加できることにしていけたらと思っています。
中川氏(全油連)
全油連は、全国87社の回収事業者が集まったネットワークです。設立から26年、長く廃食用油の回収とリサイクルに取り組んできました。大切にしているのは、安心・安全に油を集めて運び、資源に変えていくこと。近年は、脱炭素の流れを受けて勉強会を立ち上げ、家庭から出る油をどう安全に集めて資源にするかにも力を入れています。全国に回収のネットワークがあるからこそ、回収場所をどこに設けても、油をきちんと集めて運べます。実は、家庭の油だけを集めようとすると、採算が合いにくいのが正直なところです。それでも、官と民が一緒に取り組めば、無理なく続けられる。そこが、この連携の大きな強みだと考えています。
堀氏(エコクリエイティブ)
エコクリエイティブは、創業18年の環境コンサルティング会社です。廃食用油だけでなく、生ごみや木くずなど、地域にあるさまざまな資源を、その地域でいちばん活かしやすい形でエネルギーや原料に変えていく。そんな仕事をしています。
今回は、集めた油を資源に作り変える工程の調整と、回収から資源化までの流れ全体の管理を担います。地域で出たものを地域で活かす。その流れがスムーズに、そして安定して続いていくよう、しっかり支えていきたいと思っています。もうひとつ大切なのが、回収のときの品質管理です。油に異物が混じらないようにすること、どんな容器で持ち込めばよいかをわかりやすくお伝えすること。こうした積み重ねが、その後の処理を安定させ、よりよいリサイクルにつながります。区民の皆さんにとってわかりやすく、現場でも管理しやすい仕組みにしていきたいですね。
「集めて終わり」にしない。"見える化"が参加を続ける力になる
― 区民の方たちからすると、数字で成果が見えると、ぐっと自分ごとに感じられるのではないかと思います。「自分の出した油が、まちのためにこれだけ役に立っている」と分かれば、「また持っていこう」と思える。その後押しになる「見える化」は、具体的にどんなことを考えていますか。
今井(アールイー)
ウェブサイト上の画面に、地域ごと・回収場所ごとの集まった量を地図で表示して、区のホームページでも公開できるようにしたいと考えています。「自分たちの地域で、これだけ集まった」と数字で見えると、参加している実感がわきますよね。さらに、CO₂(二酸化炭素)をどれだけ減らせたかまで示せれば、取り組みの意義も、もっと感じていただけると思います。
中川氏(全油連)
今井さんのおっしゃる「見える化」に、私たちの経験から一つ付け加えると、大切なのは、ただ集まった量を出すだけでなく、「その地域から出ると見込まれる量に対して、どれくらい集められたか」という割合で見せることかなと思います。以前、東京都の事業で、都内の家庭から出る油の見込み量を調べたことがあります。1世帯あたり、年におよそ1.8リットル。これに地域ごとの世帯数を重ね合わせると、そのまちにどれくらいの油が眠っているかが見えてきます。家庭の油の回収は、全国平均でこの割合が3%ほど。うまくいっている自治体でも、8%ほどにとどまります。私たちは、まず10%を一つの目安にしています。「3トン集まりました」という数字だけでは、うまくいっているのかどうか、分かりにくいですよね。割合で見せると、次にどの地域で何をすればいいかも、見えてきます。
堀氏(エコクリエイティブ)
こうした数字の見せ方は、油にかぎらず、区のいろいろな場面で参考になってくると思います。それに、家庭の油をリサイクルに回せば、燃やすごみが減り、その分、脱炭素にもつながります。いま世界全体が、資源を循環させて使う方向へ舵を切っていますから、板橋区さんとも、ぜひその流れを一緒に進めていけたらと思います。
また、数字のみならず、回収された油が、このあとどう処理され、何に生まれ変わるのか。その流れもあわせてお伝えできると、区民の皆さんに安心して参加していただけるんじゃないかと思います。
― そもそも、捨てられた油は、どんなものに生まれ変わっているのでしょうか。
中川氏(全油連)
近年は燃料への利用が増えています。トラックなどを動かすバイオディーゼル燃料や、飛行機を飛ばすSAF(持続可能な航空燃料)。ほかにも、石けんや工業製品の原料などに生まれ変わります。子どもたちには、「みんなが集めた油で、いつか飛行機が飛ぶかもしれないよ」とお話しすることもあるんです。油はごみではなく資源なんだ——そう伝わると、ぐっと身近に感じてもらえます。
町屋氏(板橋区)
区民の皆さんの関心も、少しずつ高まってきていると感じます。燃料になることだけでなく、こうして「今、こんなものに生まれ変わっているんですよ」ということも、伝えていけるといいなと思います。
体験して、学んで。子どもから大人へ、広がる参加の輪
― 区民の皆さんに知っていただく「呼びかけ」も大切ですよね。正直なところ、これまでのPRが十分だったとは言えない面もありました。今後、どんな取り組みが考えられるでしょうか。
中川氏(全油連)
これまで全油連で実施して、好評だったものをご紹介しますと、まず、子ども向けの体験プログラムがあります。廃食用油からつくる「こねこね石けん」です。「こども霞が関見学デー」でも、農林水産省の協力のもとで実施しました。子どもたちが粘土のように色や形をつけて、数日かわかすと、手洗い石けんになるんです。その体験の合間に、一緒に来られた保護者の方へ、ご家庭の揚げ物油の出し方をお伝えする。そうやって、「油はごみではなく資源」という意識を、少しずつ育てています。全国の小学校には、リサイクルの副教材もお配りしていて、これまでに約160校・2万部ほどになりました。配布のときに保護者アンケートを取ったところ、大多数の方が「いいことだから、やってみたい」と。ただ、1割ほどの方は「やりたくない」と答えていて、理由を聞くと、ほとんどが「出す場所がない」「捨て方がわからない」でした。裏を返せば、回収場所を増やし、出し方をわかりやすくお伝えすれば、その方たちも、自然と加わってくださるんです。
― なるほど。「やりたい」という気持ちはあっても、きっかけと場所がないだけ、ということですね。そして、出した油が、ちゃんと活かされていると分かると、また持っていこうと思えますよね。そのあたりの工夫はありますか。
中川氏(全油連)
はい。集めた油を、地域に還元する仕組みもあります。ベルマーク協会との連携で、集まった量に応じて、地域の小学校にベルマークポイントが戻り、教材などに使っていただけます。自分の地域で集めた油が、地域の子どもたちの学びに還ってくる。その循環が見えると、参加の輪も、少しずつ広がっていくと思います。
板橋区から、広がっていく油のリサイクル
―ここまでのお話で、この取り組みが、区民の皆さんの暮らしのすぐそばにあるものだということが伝わってきました。最後に、これから先、区民の皆さんと一緒に、この取り組みをどんなふうに育てていきたいか、その思いを聞かせてください。
今井(アールイー)
まずは、家庭から出る廃食用油の回収を、区民の皆さんにとって、もっと身近で参加しやすいものにしていきたいですね。そのためには、回収場所を増やすだけでなく、「どこに持っていけばいいのか」「出した油がどう活かされるのか」「自分の参加が、どんな成果につながっているのか」を、わかりやすくお伝えしていくことが大切です。
民間の回収場所の開拓、回収量の見える化、子ども向けの体験やイベントでの呼びかけ。こうした取り組みを組み合わせて、区民の皆さんに「参加してよかった」と感じていただける形にしていきます。そのうえで、板橋区での取り組みを、まちなかで家庭の油を集めるモデルに育てたい。すでに回収に取り組んでいる自治体にとっても、回収場所の見直しやデータの見える化、呼びかけの強化など、いまある取り組みを次の段階に進める参考になればと考えています。
中川氏(全油連)
家庭の油の回収は、結局のところ「知っているかどうか」「身近に出せる場所があるかどうか」にかかっています。そこは、行政と民間が手を組むことで、前に進められる部分なんです。すでに進んでいる地域では、多くのスーパーが参加して、近所に回収場所があるのが当たり前、というところも出てきています。板橋区でも、そうした姿をめざしていけたらと思います。
堀氏(エコクリエイティブ)
いずれは、家庭から出た油が、板橋区のなかで燃料として活かされる——たとえば区の公共施設や、まちで動く車両のエネルギーになる。そんな未来も描けると思います。自分の出した油が、めぐりめぐって地域に戻ってくる。その絵が見えてくると、この取り組みは、もっと面白くなっていくはずです。
捨てる前に、ちょっと持っていく。今日からはじめてみませんか?
― 最後に、区民の皆さんへ、それぞれのお立場から一言お願いします。
雨谷氏(板橋区)
いま、区内の回収場所は12か所ほど。これをどう増やしていくかが、私たちの課題です。皆さんのご協力をいただきながら場所を増やし、わかりやすくお知らせしていきます。実は私自身、あの石けんづくりに油をどれくらい使うのか、気になっているんです。まずは、そんな身近なところから関心を持っていただけたら、うれしく思います。一緒に、資源がめぐるまちをつくっていきましょう。
中川氏(全油連)
日本は、資源の少ない国です。でも、家庭の油という身近なところに、まだ活かしきれていない資源が眠っています。板橋区の皆さんが先がけて参加してくだされば、「地球にやさしいまち」として、ここ板橋から発信できます。ぜひ、力を貸してください。
堀氏(エコクリエイティブ)
環境のために何をすればいいのか、わかりにくいですよね。その点、使った油をリサイクルに回すのは、すぐにできる、わかりやすい第一歩です。その先には、子どもたちの未来や、地球環境への貢献があります。ぜひ、一緒に始めましょう。
今井(アールイー)
アールイーは、皆さんが油を出せる場所を、もっと近くに増やしていく役割です。買い物のついでに、ちょっと立ち寄って出せる。そんなふうに、暮らしの中に自然と溶け込む形をめざしています。板橋区を、東京でいちばん油を出しやすいまちにしていきたいです。区民の皆さんからのご協力をお待ちしております!
※本記事は、座談会での発言内容をもとに、アールイー株式会社が編集・構成したものです。(2026年6月19日時点)