「廃食用油⇨資源」を当たり前な社会へ ― 全油連とアールイーが共創する循環モデルの現在地

全国油脂事業協同組合連合会 事務局長 塩見正人 × アールイー株式会社 代表取締役 今井直樹

全油連 事務局長 塩見正人氏(左)、アールイー㈱ 代表取締役 今井直樹

日本全国の飲食店・製造業・食品関連事業者から生じる廃食用油は、これまで事業者ごとに個別回収されてきました。その土台を長年支えてきたのが、戦前から回収・再利用のネットワークを築いてきた全国油脂事業協同組合連合会(全油連)です。地域事業者を束ね、品質確保・適正流通・制度整備をリードしてきた同会は、廃食用油を扱う現場の標準を形づくってきました。

一方、アールイーは、食・農分野で多様な関係者との協働を通じ、制度理解と現場知に基づいた資源循環の仕組み設計を行ってきました。全油連とアールイーは2021年より協働を開始し、全油連の回収インフラとアールイーの企画・調整・社会実装の視点を掛け合わせ、油の新たな価値化と循環モデルの確立を目指しています。

本対談では、全油連の塩見正人事務局長に、アールイー代表・今井直樹がインタビューし、共創による油の利活用モデルの意義と、今後の社会実装に向けた方向性を探ります。

プロフィール画像

全油連 事務局長 塩見正人氏

1979年埼⽟県⽣まれ。廃棄物処理施設エンジニア、設計、技術開発、経営コンサルタントを経て、⼟⽊建築や新エネルギー開発事業に従事。2020年全国油脂事業協同組合連合会に⼊職。23年より事務局⻑を務める。

一斗缶から始まった資源循環─80年の歴史が紡ぐ、全油連の全国ネットワーク

今井

全油連さんは長年、廃食用油の業界を支えてこられた存在ですが、改めて、どんな経緯で設立・活動が始まり、その役割を進化させてきたのですか。

塩見

日本では戦前からずっと、飲食店で使い終わった廃食用油を回収してきた歴史があります。集めた油のほとんどは飼料や石鹸の原料として再利用され、「買子(かいこ)」と呼ばれる業者が一斗缶を自転車に積んで飲食店を回り、油を買い集めていました。

戦後もこの仕事は多くの人の生業となり、とくに東京では、飲食店から集めた油を油屋に毎日納めて日銭を稼ぐところから始まっています。組合員たちの原点は、焼け野原で一斗缶を手にしたところから、自転車、リヤカー、オート三輪へと手段を変えながら、日本の高度経済成長とともに事業を広げてきた——そんな長い歩みがあります。

そして1960年代、日本で廃棄物処理法ができたことで、廃食用油も「廃棄物」と位置づけられ、収集運搬業者として許可を取るようになり、現在につながる事業の仕組みが形づくられていきました。当時は東日本組合や関西組合など、地域ごとに油脂組合があったのですが、2000年代にリサイクル関連の法律が次々とできるなどの内外の流れを受けて、2000年に各地域の組合が一つになり、全国油脂事業協同組合連合会(全油連)が発足しました。

2000年ごろのバイオディーゼルブームでは、基準が曖昧な廃食用油回収の分野に、許可を持たない事業者が次々と参入しました。そうした動きに対して、許可の重要性やルール順守を粘り強く呼びかけてきたのが全油連です。その後も、さまざまな事案の裏側で地道に現場を支え続けてきました。

SAF需要が一変させた市場─価格が1年で4倍に跳ね上がった廃食用油

今井

ここ数年で廃食用油をめぐる状況が大きく変わってきていますよね。実際、回収の現場ではどんな変化や課題が起きているのでしょうか。

塩見

大きかったのは、2020年ごろからのSAF(持続可能な航空燃料)の世界的な需要の高まりですね。コロナの頃から「航空燃料の10%をSAFにしよう」というICAOの方針が明確になり、日本でも2050年カーボンニュートラル宣言が出たことで、一気に脱炭素の流れが強まりました。
それまでは国内で、主に飼料向けの小さな市場で静かに回っていたのが、急に“世界市場に引きずり出された”ような感覚でした。メディアにも注目されるし、価格もどんどん上がっていったんです。

今井

現場の肌感としては、どれくらいの変化だったんでしょう。

塩見

例えば2021年秋は1キロ46円だった再生油脂が、海外では200円超、国内でも128円まで上がりました。1年足らずで4倍です。廃食用油が"買い取られるもの"に変わったことで、もともとは産廃として処理費用をいただいて回収していたのに、今は「いくらで買ってくれるの?」と聞かれる状況になりました。そしてこうなると、許可を持たない業者が有価で集め始めるんですね。ルールが曖昧なのでこの流れは止められず、適正処理の担保が効かなくなる。
本来、産業廃棄物の許可業者は5年ごとに更新があり、取締役に刑事罰が出ると即許可停止になるなど、厳しいコンプライアンス基準もあります。でも実際は、無許可で"有価物として集める"と言われると、行政はほとんど指導できないんです。

今井

"ルールを守る側が損をしてしまう"のは、健全な業界とは言えませんよね。

塩見

はい。だからこそ、トレーサビリティや独自認証、JAS規格の整備など、自衛の取り組みを進めています。ただ、無許可事業者の動きが大きいと、なかなか浸透しにくいのが現実です。
また、今や全油連は廃食油リサイクル全体を支えている存在なんですが、「油を動物の飼料へ活用している団体」という昔のイメージが根強くあって、なかなかその認識が広げていけないことも課題です。

国内供給40万トンでは足りない!廃食用油市場の逼迫と、日本が持つ国際的優位性

今井

そして今、廃食用油をめぐる市場は、燃料需要の高まりや国際ルールの変化で、これまで以上に大きな転換点に来ていますよね。国内資源だけでは需要を満たせないという現実も見えてきました。こうした"市場の構造変化"を踏まえたとき、私たちはどんな未来像を描き、どこに向かっていくべきだとお考えでしょうか。

塩見

国内で年間に出る廃食油は事業系だけで約40万トン。一方、燃料・飼料・工業用途などの需要を合計すると250万トンを超える見込みで、国内だけではまったく供給が追いつきません。
とくに今後、船舶燃料のバイオ化が国際的に決定されつつあり、必要量は航空燃料の比ではありません。

この構造的な需給ギャップを考えると、海外との連携は避けて通れません。インドネシアでは月40万トンの廃食油が出るにもかかわらず、リサイクルされているのは2万トン程度。残りは行き場がなく、環境負荷にもつながっています。私たちは、現地政府の規制や輸出制限を踏まえつつ、日本の回収・処理スキームやJAS規格を共有し、適切に処理された油を日本に供給できないか議論を進めています。企業ではなく組合が窓口になる意義はここにあります。

国際ルールは現在欧米主導ですが、世界の廃食油の9割以上は東南アジアが供給源です。将来的には、産油国がOPECで価格形成を主導してきたように、アジアでも秩序ある市場づくりが必要です。そんな中、日本は世界で唯一、廃食油全般の国家規格を持ち、精製・管理・流通の品質を保証してきました。この基準をもとにASEAN版ルールを作れば、アジア全体の透明な市場形成に貢献できる可能性があります。

今井

国際ルールづくりの中で、日本がリードできる領域はどこにあるのでしょうか。

塩見

日本とオーストラリア(一部)だけが、廃食油を"飼料レベルまで"精製して流通させており、国家規格として基準を定めているのは日本だけです。国際認証ISCCとは別に、国家規格を持ち、品質管理の工程を定義している点は大きな競争優位だと思います。
今後、アジア地域でのルール策定にこの基準を活用できれば、日本が持つ強みを国際市場で発揮できると考えています。

国内の廃食用油業界をアップデートすべく、アールイーとの協業へ

今井

2021年から、私たちアールイーと全油連さんの協業が始まりました。当時、私たちにどんな期待を持ってくださっていたのでしょうか。

塩見

きっかけは、当時の専務理事ですね。彼が食品リサイクルの関係でアールイーさんとつながりがあり、「廃食油でも一緒にできることがあるんじゃないか」と今井さんに話したのが始まりでした。
実は最初、私たちは「食品流通のアールイーさんが何の用だろう」と思ったんですけど(笑)、よく考えてみると、食品の生産・流通といった"動脈側"である飲食店やスーパーとのつながりをもつアールイーさんと組めば、廃棄物処理や再資源化といった"静脈側"である我々と一緒に流れをつくれるんじゃないか、という期待はありました。

今井

実際に協業が始まったとき、業界側にはどんな課題があったのでしょうか。

塩見

今井さんが全油連の内情を知るほど、「こんな世界があったのか」とのめり込んでいただけたのは、まさにそこに未整備な領域が多かったからなんです。廃食油の世界は、制度も仕組みもまだできあがっておらず、整備すべきことが山ほどありました。
ちょうど国や東京都でDXやGXが大きく取り上げられ始めた時期でしたが、正直、この分野は誰もデジタルとの掛け合わせを考えていなかったし、私たちも考え切れていなかったんです。

今井

なるほど。制度もデジタルも整っていない状況があったわけですね。そうなると、現場の動きやデータを整理して、循環の仕組みをつくっていくところに、私たちアールイーが関わる意義を見出してくださったのですね。

塩見

まさにそうなんです。最初の共同の取り組みが、東京都のTDPF(東京データプラットフォーム)事業のケーススタディでしたよね。家庭から出る廃食油を、私たちのトレーサビリティシステムを使ってアールイーさんに取りまとめてもらい、それを自治体に返すという実証でした。現在進んでいる豊島区での事業用廃食用油回収の取り組みも、その延長線上にあります。

今井

現場の感覚と、外の視点を組み合わせていくことで、新しい仕組みが動き始めますよね。
私たちにとっても協業を進めるなかで、全油連様が持つ全国の回収ネットワークをとても心強く感じています。

スーツ姿の男性が喋っている写真

塩見

はい、全国にある9組合、84社の回収拠点網は、北海道から沖縄まで組合員がいて、チェーン店さんでもどこでも同じルールで回収に行ける。これは本当に大きい強みです。
さらに、「東京都とやっています」「環境省と一緒にやっています」という形があると、組合員も動きやすくなって、業界として自浄作用が働くようになります。アールイーさんにはそのロジカルな部分を支えていただいて、業界全体を自然と底上げしていけたらと思っています。

私たちが自治体などから一番求められるのは、“継続性のある回収”です。一社体制では続かないケースが本当に多い。でも全油連なら、誰かが行けなくても別の組合がフォローできる。
技術だけあっても原料が集まらなければ成り立たないので、サプライチェーンの土台を支えるのが私たちの役割だと考えています。

現場力×ロジック力。プロ同士が組むことで加速する変革

今井

今回、家庭系・事業系・排水油泥といった複数のプロジェクトでご一緒できることを、私たちも大きな機会だと感じています。全油連さんとして、この協業で特に重視しているポイントはどんなところでしょうか。

塩見

まず大きいのは"デジタルの風"を業界に吹かせてくれたことは本当にありがたく感じています。私たちの仕事は基本的にフィジカルで、回収して、貯めて、処理して、売るという非常にシンプルな事業です。
ただ、アナログとはいえ、管理は昔からしっかりやっていて、「誰がどこから何キロ集めたか」は必ず記録していました。でも、それが紙ベースのままで止まっていたんです。

今井

なるほど。現場では長年アナログで丁寧に管理されてきた一方で、その仕組みがデジタルにつながっていないという課題があったわけですね。
最近は廃食油の扱いに対しても、より透明性や一貫した管理が求められるようになってきましたし、そうした変化に対応するには従来のやり方だけでは難しくなってきていた、ということでしょうか

塩見

まさにそうで、今は全部が追えないとCO₂削減量として認められない流れになっています。だから全油連としてシステムを作ったんですが、アナログ中心の業界には浸透しなくて、「余計なことするな」と怒られたりもしました(笑)。スマホで入力できる仕組みは作ったものの、単独で動くような設計にしてしまって、「どう連携させるのか」「どう排出者や自治体に返すのか」が分からなかった。そこを今井さんたちが整理して、「こうすれば循環するんですよ」と形を示してくれたのは本当に大きかったですね。

男性が手をあごに当てて話を聞いている写真

今井

もう一つお伺いしたいのが、今回ご一緒しているグリストラップ油の取り組みです。
グリストラップは、飲食店や施設の厨房の排水に含まれる油脂を沈殿・分離させる装置ですが、そこにたまる「浮上油」は、これまで処理コストがかかる"厄介もの"として扱われてきました。こうした、長年手つかずだった領域に踏み込めていることについて、全油連さんとしてはどのように受け止めていらっしゃいますか。

塩見

あれは、私たちにとっても非常に象徴的なプロジェクトだと思っています。
現場では以前から、「この油も、うまくすれば燃料にできるのではないか」という問題意識自体はありました。ですから最初は、正直に言えば「とにかくやってみよう」という、勢いのあるスタートだったんです。

ただ、そこにアールイーさんが入ってくださったことで状況が大きく変わりました。
誰を巻き込むべきか、どんな順番で検証していくのか、利用者側と回収側の仕組みをどうつないでいくのか──そうした全体の段取りがロジカルに整理され、結果として事業として成立する形が見えてきました。

アールイーさんに方向性を整理いただくことで、私たちからも、「ここは現場的に難しい」「この地域なら、こういうやり方ならいける」といった現実的な知見を返していく。そうやって、現場のリアリティとロジックを何度もすり合わせながら進められたことこそが、このプロジェクトの最大の特徴だと思っています。

"廃食用油は資源である" という常識を社会に広げるために

今井

私たちは「廃食用油は社会にとって重要な資源である」という価値観を社会に広げていくために、どのようなことが重要と思われますか。

塩見

事業者や飲食店は、以前から回収やリサイクルを一緒にやってきたので、ある程度ご理解いただいています。キーとなるのは、やはり一般の生活者の皆さんです。

私たちは、社会貢献・啓発事業として、小学生向けの授業やワークショップをしたり、環境副教材を全国の小学校に無償配布したりしています。そういった機会にアンケートを取ると、大人でも半数以上が「廃食油がリサイクルされていることを知らない」、小学生では7割近くが「知らない」と答える状況です。

使い終わった油をペットボトルに入れて、近所のスーパーの回収ポストに持っていく――そんな行動がごく普通になる社会が、僕らの理想ですし、全国どこへ行っても、スーパーや家庭ゴミの分別で「ビン・カン・ペットボトル・紙パック」の横に「廃食油」が並んでいる。そうなって初めて、「廃食油はゴミではなく資源だ」という認識が、国民生活の中に本当に根づいたと言えるのかなと思っています。

回収ポストのイメージ図
イメージ

そして実は、回収だけでなく、その後の利活用の仕方も同じくらい大事です。
資源として扱うのであれば、「集めれば終わり」ではなく、その地域にとって最適な使い道が選ばれるべきなんです。

例えば、九州のように畜産が盛んな地域では飼料原料として価値が高い場合がありますし、大阪近郊であれば工業利用や燃料利用など、多様な選択肢があります。
"廃食油は資源である"という前提に立つなら、地域の特性に合った最適なリサイクルルートを見つけることこそ重要だと考えています。

その意味で、全油連が多様なリサイクルルートを持ち、地域ごとの特性やニーズに応じて最適な出口を選べるという点は、廃食用油を資源として無理なく、きちんと使い切るうえで大きな強みだと思っています。アールイーさんとの協業によって、その強みを事業として整理し、再現性のある循環モデルとして社会に実装していく道筋が、少しずつ見えてきました。

日本の国際競争力を高めると同時に、国内でも「廃食用油は資源である」という認識を当たり前のものとして根付かせていくこと。その両方を実現していくために、これからも一歩ずつ取り組みを積み重ねていきたいです。

戦前から80年以上にわたり日本の廃食用油回収を担ってきた全油連と、資源循環の仕組みづくりを専門とするアールイー。
両者の協業は、単なる業務上の連携を超え、廃食用油リサイクルの構造そのものを見直し、持続可能な循環モデルを再構築する試みといえます。

デジタル化によるトレーサビリティの確立、地域特性に応じた最適なリサイクルループの設計、さらに国際連携を見据えた市場の秩序形成——。
全油連が長年培ってきた全国ネットワークと現場知に、アールイーの事業設計力と俯瞰的な分析が加わることで、廃食用油を真の「資源」として社会に定着させるための基盤が着実に整いつつあります。

こうした取り組みを通じ、日本が国際的な競争力を高めるとともに、国内においても「廃食用油は資源である」という価値観が当たり前の常識として根付いていくことを目指し協業してまいります。

(本記事は2024年12月に実施した対談をもとに構成しました)

インタビュー

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    全油連 塩見 正人

    ×

    アールイー 今井 直樹

    「廃食用油⇨資源」を当たり前な社会へ

    全油連とアールイーが共創する循環モデルの現在地

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    巣鴨信用金庫 上杉 正信

    ×

    アールイー 今井 直樹

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